「進撃の巨人」というアニメをご存じでしょうか? 人を食らう巨人がうようよしている世界で人類の住むエリアは高い壁で守られています。壁の中の人類は巨人という驚異を排除/駆逐(くちく)するため一致団結戦うわけです。巨人がなにものかも知らずに。
様々な立場で描写が入れ替わるため、子供には少し難しいアニメなんですが、現代にはびこる「差別」や「いじめ」といった問題を的確に表現している奥深い作品です。
「いじめ」の現状
過去の記事「えんとつ町のプペルに込められたもの」でも触れた内容ですが、今の日本には「いじめ」が蔓延しています。文部科学省の調査で小学校におけるいじめ件数はうなぎ上りに増加。
2020年度はコロナの影響もあり減少に転じたようですが、逆に自殺者数(小・中・高生合計)は年間415人で過去最高となりました。
小4から中3までの6年間で実に9割の子供が「いじめ被害に合った」と回答しているアンケート結果も出ていますが、幼い子供を自殺に追い込む日本の社会って、どれだけ荒(すさ)んでいるんでしょうか?
私の息子もそろそろ「いじめ」が気になる年齢になってきたこともあり、関連する書籍や資料でいろいろと勉強してきました。「いじめられた際の対処法」的なものが多く存在しており、いじめを認知した場合、当人同士の解決に期待するのはやめて事実を正確に記録し冷静に公の機関に訴える。このようなアドバイスが書かれています。
2013年には「いじめ防止対策推進法」という特に学校側での対策を義務付ける法律も施行されたわけですが、その割にはいじめ減ってないですよね? 私のようなド素人が申し上げるのはおこがましいのですが、それらの対処法や法律は本当に正しいのでしょうか? いじめの原因って学校にあるんですかね? 世間に多く出回っている対処法や国が定めた法律を見ていても、今一ついじめが無くなる実感が湧いてこないのは私だけでしょうか?(もちろん書籍の中には素晴らしい物もありました)
一言で「いじめ」といっても、その程度や背景は様々です。それを「いじめ」という一括りでまとめている間は解決の糸口は見えてこない気がするんです。
なので、いじめの状態をいじめる側目線である程度層別してみたいと思います。
いじめる側目線での層別
いじめは大きく3つの型に層別できると私は考えています。
- ストレス発散型
- 承認欲求型
- 異端排除型
1.ストレス発散型
イライラした気分をスカッとさせたい。誰でもいいから自分より弱そうな相手を見つけてフラストレーションのはけ口にするケース。そこに嫉妬やねたみが加わるとターゲット(被害者)が絞られます。
2.承認欲求型
特定のグループ内で発生するケースであり、この型には段階が存在します。
- ステージ①:認められたい
上司から褒められたい。同僚から称賛されたい。部下からは尊敬されたい。とにかく認められたい状態ですが、これは少なからず誰もが持っている感情かと思われます。 - ステージ②:順位を上げたい
より多くの称賛を得るためにグループにおける自分の立場を優位に持っていきたい。そのために自慢をしたり、相手の欠点を指摘したり、俗に言う「マウントを取る」行為。受け取り方にもよりますが、私はこの段階ではまだいじめに当たらないと思っています。 - ステージ③:従わせたい
認められたい感情がエスカレートした状態。グループにおけるカースト制度が完成しており集団のボスとなって称賛を強要するようになります。この状態にストレス発散型も加わると底辺の者は奴隷的な扱いを受け、その手口は狡猾(こうかつ)で陰湿のため発見が難しい。
3.異端排除型
未知の物を恐れる漠然とした恐怖心。今の幸せが奪われるかもしれないという被害妄想。カースト制度底辺の者を排除/粛清しようとする屈折した正義感。(承認欲求型ステージ③からの移行)いじめと言うより「差別」に近い。
主な事例を挙げたのみですので「全てのいじめはこの型に分類される」なんてことを言うつもりは毛頭ありません。実際には各型が複雑に絡む、また時系列で入れ替わっていくでしょうから「このいじめはステージ③だ!」などと特定することも不可能です。
しかしこの3つの型を見るだけでも裏に隠れた感情は様々であることがお分かり頂けるかと思います。そしてどこにでもあり得る事態であり、誰もが一度は抱いたことのある感情ではないでしょうか? 大人はそこに理性というフタをすることができるため(できない人も多くいますが)表に現れていないだけであり、子供はその感情を素直に相手にぶつけてしまう。だから9割もの子供がいじめ被害に合っているわけです。
いじめの原因はどこにある?
前述で3つの型を挙げましたが、子供の世界でこのようないじめが起きる原因はどこにあるのでしょうか? 学校において先生の目が行き届いていないからでしょうか? 法律の規制が緩すぎるからでしょうか? 違います、根本原因はその子(加害者側)の家庭にあります。
ストレス発散型の場合、家庭内でストレスを溜めているんです。お母さんがいつもイライラしている。夫婦が頻繁にケンカしている。子供が安心できる環境が整っていないわけですね。
承認欲求型の場合、ご両親が子供の自尊心を育てていない。つまり子供を褒めていない。子供の顔を見るたびに「宿題やったのか?」「ゲームばかりするな」「早く帰ってこい」親のエゴを無理やり押し付け従わせようとしていませんか? それって子供にとっては立派ないじめですよね。
異端排除型の場合、ご両親が差別的な意識を持っていると思われます。他国を差別したり、低学歴の人を見下したり。よその家の悪口を言っていたり。子供はそれを敏感に察知してマネするんですよ。親に気に入られるために親の趣味嗜好に合わせ、それを実行しようとする。なんて健気(けなげ)な存在なんでしょう。
これらの原因を見てお分かりのように、子供の間で起きるいじめの原因は学校ではありません。家庭内で受けたストレスや植付けられた差別の意識を、ただ学校という場を借りて実践しているだけです。それぞれの型への対処法については次の機会に考察するとして、忘れてはいけない心構えだけをお伝えします。あなたのお子さんがいじめを受ける側(被害者側)になった時、学校側に責任を押し付けてはいけない。むしろ学校側も被害者なんです。同じ被害者同士が協力して対処しなければ解決するはずがありません。
どうすればいじめを無くせる?
子供のいじめの原因はその子の家庭にある、とお伝えしましたが、ではどうすればその原因を無くすことが出来るのか?
最も有効な対応は子供の「心」をはぐくむことです。これについては過去の記事を参照下さい。
そしてもう一つの対応は「相手の気持ちを考えさせる」ことです。私も50年以上生きてきて自分のことしか考えられない大人をたくさん見てきました。相手の立場に立って相手の気持ちを考えるというスキルはどんな仕事でも必須の能力です。学校の教科としては「道徳」がそれに当るわけですが、お子さんのカリキュラムを確認してみて下さい。国語、算数、体育が多く並んでいる中で道徳の時間はどれほど割かれていますか? この2~3年でようやくその重要性が文科省でも議論されつつありますが、正解が無い教科だけに評価をつけることができず教育現場では苦慮されているそうです。
つまり相手の気持ちを考える能力は「家庭で教える必要がある」ということなんです。
相手の気持ちを考えさせる
ではどうやって教えればいいのか? 親本人ですらそんな教育まともに受けたことがないのに。なにか参考書はあるのか? 不安になられる方もいるかと思いますがご安心下さい。教える方法はとても簡単です。
まず子供が話す学校での出来事を親身に聞いてあげて下さい。そこに登場するA君、B君の名前を覚え、彼らについての質問をしましょう。「なぜA君は怒って帰っちゃったの?」「その時B君はどう思ったかな?」「T君(息子の名前)が同じことをされたらどう思う?」
最初はなかなか的を得た回答は返ってきません。しかし子供の答えは全て「正解」です。答えを出したことを、相手の気持ちを考えたことを褒めてあげて下さい。子供にとっては「相手の気持ちを考えると褒めてもらえる」という印象が刻まれていきます。
更なるトレーニング方法
実は相手の気持ちを考える超おすすめのトレーニング方法が2つあります。
①「風の谷のナウシカ」を家族で視聴し、主要な登場人物や蟲(むし)の気持ちを語り合う。
②「ハムスター」をペットとして飼育し、ハムスターの気持ちを理解する。
ふざけているわけではなく大真面目です。究極の裏技でもあり、子供だけではなく大人にも効果がある。これ以上の教育ツールは無いと私は確信しています。
冒頭に触れた「進撃の巨人」ですが、人類が排除しようと頑張っていた巨人たちは、自分たちと同じ血統の仲間だったという衝撃の事実が判明します。(一度も見たことがない皆様にとってはネタばれとなってしまい申し訳ない)
物事の背景を知らず、相手の気持ちを考えない行動は往々にして間違った選択を取らせるものなんですね。
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